施設入所率

高齢者のpersonal competenceと転居、高齢者施設への入所に関連する要因

研究要旨

研究目的

高齢者のpersonal competence と転居、高齢者施設への入所との関連性を明 らかにすることを目的とした。

研究方法

米国の70 歳以上の高齢者を代表するデータベースであるthe Longitudinal Study on Aging (LSOA II)の3 つのウエーブデータ(1994 年:9,447 人、1997 から1998 年:7,060 人、1999 から2000 年:5,294 人)を用いた。

研究結果・考察

一般化推定方程式(GEE)モデルにより、主に以下の3つの結果を得た:(1) Personal competence は、高齢者の転居と有意な関連を示した;(2)変化する機能制限は 複数回の転居を誘発するが、医学的に定義された機能障害は単一の移住を誘発する可能性 が高い;(3)抑うつにある高齢者は転居する可能性が低い。

考察

Personal competence は転居および転居先を予測する変数として有用である。縦断 的に検証した結果、Personal competence の中でも、身体的機能の制限が転居の可能性が高 い。これはWolinsky(1993) Miller (1999)等による先行研究の結果と一致していた。すな わち、転居先の環境が高齢者の身体的機能の低下を補充する役割がなければ Person-Environment Fit は保持できない。高齢者の日常的な行動を補足する環境にいなけ れば、高齢者が転居することを推奨する必要がある。

結論

高齢者のpersonal competence は、他の健康的指標に比べ、介護政策と社会福祉 の実践に重要な指標となることが示唆された。特に、高齢者の身体的とメンタル的な personal competence によってケアの選択肢に格差がないか調査をする必要がある。

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A.研究目的

 身体機能の低下が居住場所の移動に関連しているというエビデンスがあるにも関わらず、長期間、 高齢者個々に生じている能力(以下、personal competence)の変化のパターンや大きさを調査した 研究はほとんどない。さらに、先行研究の結果は一致しておらず、様々なpersonal competence の要因が、どのような居住場所の変化や転居先(種類)を引き起こすのかは明らかになっていない。

 そこで、本研究では、米国における高齢者のpersonal competence、およびpersonal competence の変化と終の生活における居住場所の移動との関連に焦点を当てた。われわれは、米国の70 歳以上 の高齢者を代表する3 つのwave の国レベルのデータを用いて、合併症、機能的障害、機能制限、健 康関連、健康度自己評価(self-rated health)、メンタルヘルスによって測定されたpersonal competence の関連について、一般化推定方程式モデル(Generalized estimating equation:GEE) により分析した。

 70 歳以上の国を代表する高齢者のサンプルを用いて、居住場所の移動と機能的な状態の 変化との関連を調べた研究は、Wolinsky ら(1993)やMiller ら(1999)によって行われ た研究だけである。Wolinsky ら(1993)は、体の限界とAdvanced ADL(AADL: 金銭の管理が困難である、電話を使用できる、食事をすることができる)の低さはナーシ ングホームへの移動のオッズが有意に高いことを報告している。また、ともに同じデータ を用いてWolinsky ら、Miller らが行った研究では、地域をベースとした移動のpredictors は同じ(つまり、身体的限界が低いこととAADL が低いこと)であったが、Wolinsky らの チームが行ったナーシングホームの結果はこれらと異なっていた。

 そもそもこうした研究は少ないことから、personal competence と居住場所の移動との関連に ついては、未だ一定の見解は得られておらず、検証が求められている。機能的健康、すなわちADL やIADL は、基本的なpersonal competence の重要な指標であるが(Lawton, 1983)、身体的能力に影 響を受けるなどその限界についても報告されている(Johnson & Wolinsky, 1993)。

 Person-environment fit(個人-環境の適合性)からpersonal competenceを記述する場合、Johnson とWolinsky(1993)のStructure of Health Status モデルが、personal competence の包括的な概 念枠組みに最も近いと考える。このモデルはNagi の体系に基づいており、Johnson と Wolinsky は この考え方に基づき、社会的モデルをつくりだした。加齢に伴うcompetence の喪失の段階的な進行 に伴い、病気から健康状態までの過程として、personal competence を測定することは、高齢者の移 住プロセスを縦断研究のモデリングに適していると考える。

 唯一、本モデルが取り扱っていないものが高齢者のメンタル・ヘルスである。先行文献では、高 齢者のうつ発症は潜在的に居住場所の移動を引き起こす可能性があることが指摘されている (Castle, 2001)。先行研究では、身体の障害とうつとの関係性(Bruce, 2001)、主にうつが身体障害 の兆候を示す(Cole & Dendukuri, 2003; Turner & Noh, 1988)ことが報告されている。しかし、高 齢者のうつが居住場所の移動の要因になっているか否かについての検証されていない。

 そこで、本研究では、米国の高齢者を対象とし、メンタル・ヘルスを含むpersonal competence およびその変化と、居住場所の移動との関連を明らかにすることを目的とした。

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B.研究方法

研究対象

 時系列的な高齢者の居住場所のデータを得るために、米国のthe Longitudinal Study on Aging (LSOA II)から3 つのウエーブデータを用いた。LSOA II は施設に入所していない70 歳以 上の高齢者の国を代表するサンプルデータである。先行研究でも高齢者の健康状態と居住 場所の移動を調べるために、このデータベースが用いられている(Chen & Wilmoth, 2004; Choi, 1996; De Jong et al., 1995; Miller et al., 1999)。われわれは、居住場所の移動におけ るpersonal competence の変化への影響を考慮し、LSOA II の最新バーションである 1994-2000 年のデータを用いた。本研究は、1994 年における70 歳以上の地域在住高齢者 9,447 人のベースラインサンプルを用いた。そして、1997 から1998 年の間(N=7,060)、 1999 から2000 年の間(N=5,294)にフォローアップのインタビューを行った。また、死 亡や入院、あるいはwaveⅡとⅢの間で脱落した人を除外した。

測定指標
1)健康状態:

personal competence を測定するために、Johnson and Wolinsky(1993) のStructure of Health Status モデルをベースにした5 つの変数を用いた。これらの変数に は、合併症(medical comorbidity)、機能的障害(functional disability)、機能制限(functional limitation)、健康度自己評価(self-rated health)を含んでいる。加えて、メンタルヘルスを祖 k ステイするために、抑うつのレベルを測定するための指標を用いた(表1)。

表 1. Average means of personal competence across three waves

Personal
Competence
OperationalizationWave I Mean
(SD)
Wave II Mean
(SD)
Wave III Mean
(SD)
Medical
comorbidity
Total number of medical conditions (higher is worse) 2.26
(1.57)
2.18
(1.48)
2.38
(1.54)
Functional
disability
Total number of NAGI activities with which SP has an difficulty(higher is worse) 1.96
(2.47)
1.71
(1.89)
2.13
(2.10)
Functional
limitation
Number of ADLs and IADLs with difficulty(higher is worse) 1.17
(2.51)
1.47
(2.42)
2.31
(3.15)
Self-rated
health
4-point scale representing “poor(1)” through “excellent(5)” 3.34
(1.04)
3.23
(1.09)
3.04
(1.11)
Depression 4-point scale representing “none of the time (1)” through“all of the time (4)” 1.83
(0.82)
1.84
(0.79)
1.89
(0.79)

2)居住場所の移動(Residential relocation):

 高齢者が何回転居するかを調べるために、転居したか否かの二値変数(1=転居した、0 =そのまま)を作成し、waveⅠとⅡのそれぞれで調べた。ベースラインからの居住の期間 (長さ)についても測定した。表2 に3つのwave における転居、非転居者の数を示す。研 究対象のわずか6%は、はじめのインタビューの前の年に転居していた。10%はwaveⅡで 転居し、13%がwaveⅢで転居していた。また、およそ0.5%は毎回(wave)転居していた。 一方、77%は居住場所を移動していなかった。

表2. Pathways of residential relocation (N=5,294)

Wave IN (%)Wave IIN (%)Wave IIIN (%)
In place 4,983 (94.13) In place 4,546 (86.05) In place 4,058 (76.90)
Relocate 485 (9.19)
Relocate 427 (8.08) In place 319 (6.05)
Relocate 107 (2.03)
Relocate 311 (5.87) In place 213 (4.03) In place 174 (3.30)
Relocate 38 (0.72)
Relocate 97 (1.84) In place 68 (1.29)
Relocate 28 (0.53)
Missing 0 Missing 11 Missing 17
3)転居先(種類):

 転居先のパターンを調べるために、「long-term care setting(以下、高齢者施設)」あるい は、「自分の家」にいつかどうかを調べた。ここでいう「自分の家」とは、高齢者用住宅(コ ミュニティ)の一部ではない家族用の住宅、タウンハウス、通常のアパートを含む。「高齢 者施設」は、高齢者住宅(コミュニティ)、管理されたアパート、ケア付ホーム、食事つき ケアホーム、assisted living setting(ケア付き施設)、ナーシングホーム、回復期・休養の ためのホーム、老人ホームを含む。表3 に3つのwave における転居先を示した。ベースラ インでは高齢者の約6%が高齢者施設に居住していた。

表3. Changes in residential type (N=5,294)

Wave IN (%)Wave IIN (%)Wave IIIN (%)
Own home    4,952(94.34)    Own home  4,538(89.88)  Own home 4,037(83.24)
LTC 329(6.78)
LTC  230(4.57)  Own home 57(1.18)
LTC 167(3.44)
LTC    297(5.66)    Own home  118(2.34)  Own home 57(1.18)
LTC 50(1.03)
LTC  162(3.22)  Own home 25(0.52)
LTC 128(2.64)
4)人口学的変数:

 年齢、性別、人種、教育、婚姻状態、世帯所得、貧困指数、保険の種類(医療保険、民間保険)を分析に用いた。表4 に基本統計量を示す。

表4. Descriptive statistics and operationalization of the study variables (N=5,294)

 
VariablesOperationalizationMean (SD)N (%)
Age Actual number of years 75.52 (5.26)  
Gender 1 = Female, 0 = Male   3,339 (63.07)
Race 1 = White, 0 = Other   4,709 (88.95)
Marital status 1= Married, 0 = Not married   2,928 (55.42)
Education 0 = None/ Kindergarten only   30 (0.57)
  1 = Elementary school   1,079 (20.67)
  2 = High school   2,617 (50.13)
  3 = College   1,183 (22.66)
  4 = Post-college or more   311 (5.96)
Income 0 = Less than $1,000 26 = $50,000 and over 17.12 (6.58)
Poverty index 1 = Below poverty threshold, 0 = At or above poverty threshold   1,127 (21.29)
Insurance 1 = Covered by Medicaid,0 = Not covered by Medicaid   418 (7.95)
  1 = Covered by Medicare,0 = Not covered by Medicare    

(倫理的配慮)
本研究では、個人的な情報が既に外されている二次データを使用しているため、直接的な倫理的配慮を問われないが、データの使用に当たっては、データを使用する際、研究以外の理由目的には使用しないことを誓約し、承諾を得た。

C.研究結果

 Longitudinal Study of Older Adults (LSOA) II(1994-2000) のベースライン・データは、地域 に住む70 歳以上高齢者5,294 人であった。年齢は69 歳から97 歳まで(平均(SD)=75.52(5.26)) であり、高齢者の大半が白人(89%)、女性(63%)そして既婚者(55%)であった。比較的に教育レベルが 高く、50%が高卒、28%が大卒以上であった。約63%が$2 万ドル以下の平均所得があり、そのうち21% 近くが貧困ライン以下だった。約8%がメデイケイド(公的医療扶助)を受けており、79%が民間保険 を保持していた。

 ベースラインの5,294 人中、1,223 人が3つのwave を通して最低1回の転居を経験していた。そのうち、約46%が居住場所の種類を変えていた。高齢者施設に転居した高齢者の数 はwaveⅠで126 人、waveⅢで318 人に増加していた。

表 5. Changes in residence type among older adults who relocated (N=1,223)

Wave IN (%)Wave IIN (%)Wave IIIN (%)
Own home 1,077 (89.53) Own home 848 (74.45) Own home 540 (49.77)
LTC 264 (24.33)
LTC 170 (14.93) Own home 141 (13.00)
LTC 26 (2.40)
LTC 126 (10.47) Own home 79 (6.94) Own home 68 (6.27)
LTC 6 (0.55)
LTC 42 (3.69) Own home 18 (1.66)
LTC 22 (2.03)
Missing 20 Missing 84 Missing 138
Personal competence と居住場所の移動の関連

 表6 に結果を示す。ベースラインにおいて自宅に住んでいた高齢者は、転居の可能性は 低く、高齢者施設に入所する可能性も低かった。

 Personal competence に関しては、併存症の重症度とその変化による転居や施設入所への 影響はなかった。しかし、機能的障害が増えると、高齢者施設への入所と同様、転居とす る可能性を高めた。機能的障害の変化と転居や高齢者施設への入所との間には有意な関連 はなかった。

 機能制限は、転居を多くすることも明らかになった(β=0.077, p<.01)。さらに、機能制限 -0="" 155="" p="" 001="">

 全体的に、personal competence のレベルが転居や居住場所のタイプの変化と有意に関連 していた。すなわち、高齢者が転居するかどうかは、現在のpersonal competence のレベル に基づいているといえる。社会疫学的な要因として、高齢者はより高齢者施設に入所しや すく、特に女性は男性に比べて転居しやすいことも明らかになった。結婚している高齢者 はより転居や高齢者施設に入所する傾向にあった。加えて、高い教育を受けている高齢者 は高齢者施設に入所する傾向にあった。また、保険の状況による転居や施設入所への影響 はみとめられなかった。有意な関連を示した個々の要因とともに、これらの結果は高齢者 の転居や施設入所に対するpersonal competence の影響を示すエビデンスとなるであろう。

表6. GEE regression of any residential relocation and relocate to LTC setting

Independent variablesResidential relocationEnter LTC setting
Demographics        
Age -0.001   0.065 ***
Gender 0.180 * 0.019  
White -0.281 * -0.182  
Marital status 0.177 * 0.404 ***
Education -0.038   -0.217 **
Income 0.009   0.007  
Poverty -0.066   0.057  
Insurance        
  Medicaid 0.001   0.021  
  Private insurance 0.013   0.036  
Living in own home -2.545 *** -3.102 ***
Personal Competence        
Medical comorbidity -0.014   -0.009  
Functional disability 0.114 *** 0.117 ***
Functional limitation 0.077 ** 0.002  
Self-rated health -0.042   0.029  
Depression -0.155 *** -0.066  
Changes in Personal Competence        
Changes in medical comorbidity -0.035   -0.036  
Changes in functional disability -0.013   -0.005  
Changes in functional limitation 0.048 * 0.046 *
Changes in self-rated health -0.002   0.066  
Changes in depression 0.089   -0.040  
Pseudo-R2 61.664   78.859  

(N=26,470)

Significance level * p<0.05, p="" 0="" 01="" 001="">

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D.考察

 本研究の結果から、高齢者のpersonal competence が、転居と転居先の種類に影響を及ぼして いることが明らかになった。すなわち、高齢者の最近のpersonal competence の度合いによって 移住の有無が生じていた。高齢者の健康状態を表す自立機能(ADL やIADL)の変化が、転居や高齢者施設への入所と関連していたという本結果は、Wolinsky et al. (1993)、Miller et al. (1999) と同様であった。自立機能の他、併存症や身体機能障害も転居に独立した関連があったことが明ら かになった。本研究により、personal competence の縦断的影響力が確認できた。

E.結論

 Personal competence と転居との関連性を研究するにあたり、Johnson とWolinsky(199 3)のStructure of Health Status モデルが有用であることが本研究で証明できた。Personal competence が持つ多面性は、転居とpersonal competence の異なる関連性を幾つか提示した。

 転居は、加齢に伴う心身の変化によって起こるイベントであり、高齢者の基本的ニーズと予測さ れているニーズの違いを明らかにする必要がある。したがって、転居を引き起こす要因を高齢者の ニーズの内容とレベルによって転居先を選定する必要がある。

 最後に、本研究で明らかになったメンタル・ヘルス(うつ病の変化)は高齢者の転居を誘発しな いことがわかった。しかし、高齢期のうつ病の症状は医療的や神経的障害と併存することが多く、 確認することが難しい(Alexopoulos,2005)。したがって、高齢者に関わる医療や福祉の実践の現場 で高齢者のうつの診断能力を改善する必要があると考える。

F.研究発表

  1. 論文発表
    なし
  2. 学会発表
    (発表誌名巻号・頁・発行年等も記入)

なし

G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む。)

  1. 特許取得
    なし
  2. 実用新案登録
    なし
  3. その他
    なし

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