転倒の要因

老人保健施設における転倒の評価指標に関する文献学的考察

研究要旨

研究目的

文献学的な考察により、転倒のアウトカム評価の指標となる転倒の頻度について、また転倒の頻度と関連性のある転倒要因について検討する。

研究方法

高齢者施設での転倒頻度と転倒要因を分析した文献のレビューを転倒の観察単位に着目して行った。国内は医中誌で、海外はPub Med で検索した。

研究結果・考察

国内文献では、転倒を観察単位とした研究で例数が少なく原著論文も多くな かった、海外文献では人を観察単位とした研究やRCT も複数存在していた。転倒頻度に着目して いる研究では、転倒頻度を人年でみている研究、Cox 比例ハザードモデルを用い、2 回目の 転倒を起こすまでの期間をみている研究があった。

A.研究目的

 本研究の目的は、介護老人施設における転倒に関する研究の国内外の動向、特に、転倒をどのよ うな指標で測定するのかに着目し、そこから今後の研究への示唆を得ることである。

B.研究方法

 国内の文献については、医学中央雑誌Web を用いた。検索対象は、わが国に介護保険制 度が導入された2000 年から2010 年とし、原著論文に限定した。「転倒・転落」、「高齢者」、 「介護老人保健施設」のキーワードでヒットした文献で、転倒の頻度と転倒の要因につい て言及しているものを分析対象とした。

 海外の文献については、PubMed を用いて検索を行った。海外の文献は日本に比べて既に 多くの文献が蓄積されている。特に米国では、ナーシングホームの質の低さが社会問題化 していた時期があり、連邦政府が質向上に向け、すべてのナーシングホームにMinimum Data Set(MDS)を用いたアセスメントとその情報の提出を義務付けている。収集された情報は 報酬支払い側によって客観的指標であるQuality Indicators、Quality Measures に変換さ れ、ナーシングホームへのフィードバックだけでなく、それらの結果はウェブサイトで一 般公開されている。米国で使用されているナーシングホームのQuality Indicators24 項目 の1項目に転倒が含まれている。こうした背景から、転倒に着目した研究は多い。そのた め、今後の研究で着目しようとしている1人の人が起こす転倒の頻度の測定方法を明らか にすべく、「fall」、「elderly 」、「rate」、「nursing home」のキーワードでヒットした文献 について、抄録から転倒の頻度と転倒の要因について記載のあるものをハンドサーチし、 介護老人施設での転倒について分析した文献に限定し、レビューを行った。検索の対象期 間は2011 年までの全期間とした。

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C.研究結果

 国内では、「転倒・転落」、「高齢者」、「介護老人保健施設」のキーワードでヒットした文 献は67 件で、さらに原著論文を抽出したところ33 件となった。結果に転倒の頻度を含み、 転倒の要因についても分析した文献は5 件であった。うち原著は2 件しかなかった。(表1)

  国内文献では、施設を観察単位として分析しているものが多く、入所者数と転倒者数か ら施設での転倒率を算出して、その関連要因をみた研究が多かった。転倒回数をみた研究 としては、重森らの研究が該当した。観察期間は最長の24 か月で、その間の転倒回数を検 討していた。

 海外文献では、[fall」、「elderly 」、「rate」、「nursing home」のキーワードでヒットし た文献は103 件であった。研究デザインから、RCT と観察研究に分類し、ハンドサーチによ り、観察研究を3 件、RCT を7 件抽出し、表2、3 に整理した。海外文献では、まず、観察単 位が全ての論文に明記され、RCT では施設単位の介入を施設単位の指標で評価した研究、人 単位の介入を人単位で評価した研究が存在した。

 各人の転倒頻度に着目した研究では、転倒頻度を人年でみている研究、Cox 比例ハザード モデルを用い、初回から2 回目の転倒を起こすまでの期間をアウトカムとして分析した研 究があった。

D.考察

 国内文献では、施設の転倒を対象とした原著論文が少なく、海外文献では人を観察単位とした研 究も含めて多数存在していた。転倒は施設ケアの質の指標であり、日本の施設で人を観察単位とし た研究を蓄積する必要性が示唆された。

 転倒頻度の測定方法については、一定期間の転倒回数をみたものが多かった。昨年度、 報告した研究も同様である。しかし、転倒が発生するまでの期間が考慮できていないとい う限界が残っていた。つまり、同じ回数の転倒者でも初回の転倒から再転倒までの期間が 長かった者やベースラインで複数回転倒したが、その後は転倒していない者が同一に扱わ れてしまうといった限界があった。

 今回の文献レビューにより、生存時間分析を用い、こうした限界を考慮した分析方法を 見出すことができた。次年度の研究につなげていきたいと考える。

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E.結論

 実地指導等で転倒・事故報告書を施設が整備しているかの指摘はあり、多くの施設で多 数の転倒・事故報告書が単純集計はされるが、活用されていない。 昨年度の研究で、転倒報告書から人単位でみる転倒の頻度や転倒要因の関連性を分析し、 今年度の文献検索から経時的な分析方法も手法に加えることで、施設の転倒を評価するこ とが可能と考えられる。

 どこの施設でも記録として有する転倒報告書から、転倒関連ケアの実態評価とケアの改 善につながるリスク因子分析の双方、そして改善策を実施した後の評価を含めたPDCA を、日常的に行えるシステム・拠点が必要と考える。

表1:国内文献

著者
発行年
タイプ
分析対象期間
(月)
転倒の頻度関連要因(p<0.05)等観察
単位
1 征矢野ら
2008
報告
入所30 名(男性7 名、女性21 名、未記 載2 名)、転倒者12 名3 カ月のインシデン トレポート 3 転倒者は12 名(40%) 転倒者と非転倒者でリ スク項目毎の割合から χ二乗検定。ふらつき、 見当識障害、不穏、抗 パーキンソ薬は有意。
2 村山ら
2006
報告
認知症専門棟1 年間 の入所者117 名の転 倒報告書とBPSD(行 動障害)報告数 12 1 カ月間の転 倒者数/ 1 ヵ 月の平均入所 者数で、平均 16.9±6.0% 転倒者率と暴力行為報 告率、複数回転倒者率 と夜間浅眠報告率は Mann-Whitney のU 検 定で有意。
3 重森ら
2006
原著
221 名の入所者2 年 間。 入所者221 人。 転倒者71 名、延べ 196 回の転倒。各種 記録使用 24 認知レベルを 3 群(正常・軽 度、中等度、 重度)とし、転 倒回数は中央 値で、各々 0,0,1 回。重度 者に転倒回数 多い (ruskal-Wallis test) 正常+軽度認知症群 に対し中等度IRR1.51 倍、重度2.32 倍の転倒 リスク(ポアソン回帰分 析)
4 坂本ら
2004
原著
認知症専門棟入所中 の転倒者23 名、延べ 43 件転倒、8 ヶ月分の 転倒報告書 8 23.6%(43 件 /182 名入所) 内的因子特に精神面が 関与(直交回転バリマッ クス法による主因子法) 転倒
5 北川ら
2003
報告
平成13 年1 年間であ った197 件の転倒のう ち要治療となった25 件、男性10 名、女性 10 名 12 16 名は1 回転 倒し他は複数 回転倒(数値 なし) 夜間トイレ、移動が自 立、転倒既往あり、トイ レ介助が必要、抗不安 剤、降圧剤、頻尿、認 知力低下、抗パーキン ソン薬に注意 統計検 定なしで 転倒
表2:海外文献:RCT 以外

著者

setting,
sample
design転倒
outcome scales
結果観察
単位
6 2009 Spain 98 人
平均入所期間 4.7M
中央値3.3M(1.7-7.5)
Cohort 2007 年入所 26.3/100P-M
転倒実数121 回
56.1% 倒無
"Barthel 25-60"HR 2.77 ~3.77 人単位の転 倒数提示 Cox 比例ハザ ード
7 van Doorn 2003 USA 59 施設 65 歳以上
2 年滞在215 人
Prospective cohort 2Y 認知症者4.05
転倒/人年 vs
非認知症者 2.33
認知症者の転倒頻度は高 いが、受傷頻度は非認知 症者より低い
8 CDC 2006 USA 12 施設 282人
65歳 以上
滞在は3か月以下でない
Prospective cohort 1991-1992 111 人が2 回 以上転倒
54.9%再転倒
/100 人-年
Cox 75 歳以上 1.66(1.01-2.72),4 以上の ADL 介助、・・・問題行動 など
定期向精神薬内 服者1.94(1.28-3.05)、再 転倒も多い44.1 vs 22.9 /100P-Y
表3:海外文献:RCT

著者

follow M転倒 outcome scales観察
単位
IG vs
CG
介入
9 Ray,1997,USA 24 % persons with recurrent falls 施設 43.8
vs54.1
個別の評価と安全対策と通常ケア
10 Becker,2003,
Germany
12 fall rate/1000 person
year
施設 1339 vs
2588
非薬物・広範囲のケアと通常ケア
11 Bischoff,2003,
Switerland
3 fall rate/person week 0.034 vs
0.076
VitD投与と Caサプリ
12 Meyer,2003,Germany 15(IG)
14(CG)
fall rate/person
month
0.17 vs
0.22
スタッフの講習と通常ケア
13 Kerse,2004,New
Zealand
12 fall rate/person-year 4.1 vs
2.3
個別評価及びマネージメントと通常ケ ア
14 Zermansky,2006,
UK
6 mean number of falls/patient 0.8 vs
1.3
投薬の評価調節の有無
15 Neyens,2009,Net
herlands
12 falls/ patient/ years 2.09 vs
2.54
広範囲のケアと通常ケア

IG:Intervention Group CG:Control Group
観察期間は月

文 献
  1. 征矢野あや子、保里和彦、田島直也、原田京子、新原幸子(2008).介護老人保健施設の転倒・関連要因、Osteoporosis Japan,16(3).548-550.
  2. 村山明彦、上内哲男, 小松泰喜, 三谷健, 富樫早美, 緑川亨, 地神裕史, 米波浩二(2006).介護老人保健施設認知症棟における認知症の行動・心理症状(BPSD)報告率と転倒者率・複数回転倒者率の関連について、高齢者のケアと行動科学, 12(1). 15-18.
  3. 重森健太、日下隆一, 大城昌平, 濱辺淳一(2006)介護老人保健施設における認知症の程度と転倒の関係について、日本認知症ケア学会誌、5(1).21-26.
  4. 坂本望,森山英樹, 今北英高, 前島洋, 吉村理, 白濱勲二(2004). 介護老人保健施設痴呆専門棟における転倒の危険因子,日本職業・災害医学会会誌、52(3).161-165.
  5. 北川正子、田垣冴里, 堀由美(2003)介護老人保健施設における転倒事故の傾向 北海道社会保険介護老人保健施設サンビュー中の島、北海道社会保険病院紀要、2、62-65.
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  8. Quinn CC, Taler G, May C, Magaziner J(2003). Dementia as a risk factor for falls and fall injuries among nursing home residents.J Am Geriatr Soc. ;51(9).1213-1218.
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  17. 15. Neyens JC, Dijcks BP, Twisk J, et al.(2009) A multifactorial intervention forthe prevention of falls in psychogeriatric nursing home patients, a randomized controlled trial (RCT). Age Ageing .38.194–199.

F.研究発表

  1. 論文発表:なし
  2. 学会発表:

宮田澄子,田宮菜奈子,伊藤智子,柏木聖代.介護老人保健施設における転倒実態と要因:身体拘束ゼロの施設・5 年間の転倒報告書から.第69 回日本公衆衛生学会総会,2010 年10 月(東京)

G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む。)

  1. 特許取得
  2. 実用新案登録
  3. その他

なし

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