米国ナーシングホームQuality Indicator

老人保健施設におけるアウトカム指標の分析-全国108施設における調査から

研究要旨

研究目的

本研究では、全国老人保健施設協会がすでに実施し報告した、「老健利用者の個別特性と時系列的状態像の把握を目的とした指標(コーディング)の検証に関する調査」研究班のデータを再分析し、これをもとに、施設別に利用者のいくつかの状態像の頻度を算出することによって、施設ケアの指標として検討することを目的とした。

研究方法

108 施設における入所者1084 名である。調査のうち、基本属性に加えて、施設ケアのアウトカムとして重要とされている「転倒」「脱水」「褥瘡」「誤嚥」の4 つをアウトカム指標として選択し、施設ごとの発生頻度を算出した。

研究結果

アウトカム発生状況をみると、最も頻度の高いアウトカム指標は転倒であり、全体の対象者のうち33.52%が6 ヶ月の期間に最低一度転倒していた。次は、褥瘡および誤嚥が6.59%と6.49%に比して、高い発生頻度であった。また、転倒が他のアウトカム指標(脱水、褥瘡と誤嚥)と違って、介護度2と3の者で多く発生していた。

考察

高齢者施設ケアにおいて、発生率の高い転倒を避けるための推進活動と予防活動の推進が重要であることが改めて示唆された。

結論

本研究は、施設ごとのアウトカム指標の発生割合を、全国からランダムに抽出した施設において示した我が国初めての研究である。今後、これらの結果を施設の属性データと連動させて詳細に分析・解釈し、全国老人保健施設協会と協力のもと、施設ケアの向上に資するような提言を検討していく予定である。

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A.研究目的

 施設ケアの質の向上は、施設ニーズがますます高まる (Houde SC, 2007)我が国において、大変重要な課題である。しかし、我が国における施設ケアの質の向上のための取り組みは不十分である。そのため、質の評価への理解を深め、外部評価を実施するのみでなく、施設のサービス提供プロセスにあった独自の評価も実施し、それに基づいたより質の高いケアの提供へとつなげていくことが求められている。

 米国では、1980年代、老人ホームケアの質の悪さにより諸問題が生じ社会問題となった。これに対し、米国政府は、ケアの質を向上するためにさまざまな取り組みを実施した。これらのうち代表的なものが、老人ホームの約16500ヶ所を評価するために策定されたミニマムデータセット:MDS(ケアアセスメントツール)である (Hawes C, et al. 1995)。この最初の正式な老人ホームにおける評価指標(Quality Indicators QIs)は、数多くの研究成果をもとにZimmerman(Zimmerman、2003)により作成され、世界中で評価されてきた。これは、24項目の客観的評価指標のQualityIndicatorsから構成され、ケアの評価およびその結果をケア提供側にも還元することに活用されてきた(Morris J 2003)。しかし、このような評価は海外に広がっているのにもかかわらず日本では使用されていない。

 そこで、本分析では、全国老人保健施設協会がすでに実施し報告した、「老健利用者の個別特性と時系列的状態像の把握を目的とした指標(コーディング)の検証に関する調査」研究班のデータを再分析し、これをもとに、施設別に利用者のいくつかの状態像の頻度を算出することによって、施設ケアの指標として検討することを目的とした。我が国での多施設でのアウトカム発生頻度の分析としては、初めての試みと考える。本分析にあたっては、本研究主任研究者田宮が、全国老人保健施設協会における研究班の班員であり、共同研究者とともに全国老人保健施設協会の許可を得て分析したものである。なお、施設名などの情報は除外して特定ができないような状態で分析をしている。

 本調査の指標の中から我々は4つのアウトカム指標を選択した。このうち転倒、脱水および褥瘡は、Zimmermanの24項目評価指標に含まれている。また、他の評価においても、転倒と褥瘡は、アウトカム指標として検証されており、ケアの質の最重要指標と見なされている(Morris J、2003)。さらに、脱水は十分な精度で測定し、非常に一貫性の指標として考えられていること(Davies SM、2001)、誤嚥については施設でよく発生する事故であることから、経験的に重要と考え採用した。

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B.研究方法

 本分析は、全国老人保健施設協会がすでに実施し報告した、「老健利用者の個別特性と時系列的状態像の把握を目的とした指標(コーディング)の検証に関する調査」研究班のデータをもとに、施設別に利用者のいくつかの状態像の頻度を算出することによって、施設ケアの指標として検討することを目的として再分析したものである。これにあたっては、前述したように本研究班の班員であった田宮(本研究主任研究者)が、共同研究者とともに全国老人保健施設協会の許可を得て分析したものである。なお、施設名などの情報は除外して特定ができないような状態で分析をしている。

 この研究の当初の対象は、182 の老人保健施設の入所者3509 名であり、各施設より入所者の20 名をランダムに選びその対象者についての事項の回答を求めた。老人保健施設において、各施設スタッフが記録をもとに調査用紙に記入し返送した。

 今回、本分析では、この調査のうち、基本属性に加えて、施設ケアのアウトカムとして重要とされている転倒・脱水・褥瘡・誤嚥の4 つをアウトカム指標として選択し、施設ごとの発生頻度を算出した。また、今後、各施設の特性を示す別データとリンクして分析をする必要性から、別途同協会がまとめている施設特性調査の対象1117 施設にも含まれている111 施設のみを分析対象とした。

 さらに、分析にあたり、1)1施設の全入所者のうち分析対象となった者が平均19.58名だったにもかかわらず、10 名と平均より少なかった1施設、2)施設の全入所者のうち分析対象となった割合が平均4%と5%と平均22.3%より大きく下回っていた2施設は、分析対象から除外した。最終的に本分析対象となった施設数は108 施設となった。

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C.研究結果

 対象となった108 施設における入所者1084 名で、うち女性が65.77%(713 名)、男性が34.23%(371 名)であった。入所者の性別に介護度についての分析を行ったところ、女性の入所者は要介護度2が18.39%(197 名)と最も多く、続いて介護度3が16.71%(179名)であった。その一方で、男性の入所者は介護度3が9.24%(99 名)であった。(表1)

1)転倒

6 か月の調査期間における施設ごとの転倒者発生率は、5%から65%に分布し、108 施設平均では、32.7%であった。0%すなわち、6 か月間で全く転倒者がいなかった施設はなかった(表1)。また、個人単位でみると、108 施設のうち105 施設から359 名の転倒の報告があった。これは全対象者33.52%にあたる。転倒した者のうち、女性は66.48%(238 名)、男性は33.52%(120 名)であった(介護度不明のため表4とは異なる。以下全てのアウトカムについても同様)。また、転倒した者の大部分を占めるのは介護度2と3であった。

2)脱水

6 か月の調査期間における施設ごとの転倒者発生率は、0%から35%に分布し、108 施設平均では、5.7%であった(表1)。また、個人単位でみると、108 施設のうち37 施設から58 名の脱水の報告があった。これは、サンプル数の5.46%にあたる。脱水の症状が認められた者のうち、女性は65.47%(35 名)、男性は34.53%(23 名)であった。また、脱水の症状が認められた者の大部分を占めるのは介護度4であった。

3)褥瘡

6 か月の調査期間における施設ごとの転倒者発生率は、0%から26%に分布し、108 施設平均では、6.3%であった(表1)。 個人単位でみると、6 か月の調査期間において108施設のうち49 施設から70 名の褥瘡の報告があった。これはサンプル数の6.59%にあたる。褥瘡が発生した者のうち、女性は72.86%(51 名)、男性は27.14%(19 名)であった。また、褥瘡が発生した者の大部分を占めるのは介護度4であった。

4)誤嚥

6 か月の調査期間における施設ごとの転倒者発生率は、0%から30%に分布し、108 施設平均では、6.9%であった(表1)。 個人単位でみると、6 か月の調査期間において108施設のうち51 施設から69 名の誤嚥の報告があった。これはサンプル数の6.49%にあたる。誤嚥性をおこした者のうち、女性は55.07%(38 名)、男性は44.93%(31 名)であった。また、誤嚥をおこした者の大部分を占めるのは介護度4であった。

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D.考察

 本研究は、広く海外で確認されているアウトカム指標(Zimmerman、2003)を使用して、施設ごとのアウトカム指標の発生割合を、全国からランダムに抽出した施設において示した我が国初めての研究である。本研究で使用されて選択されたアウトカム指標のうち、転倒と褥瘡については、アウトカム指標として広く検証されており、ケアの質の最重要指標と見なされている(Morris J、2003)。この2つの指標は、今後もアウトカム評価にも含むべきである。また、脱水も一貫性のあるケアのアウトカム指標として考えられている(Davies SM、2001)。

 本研究のアウトカム発生状況をみると、最も頻度の高いアウトカム指標は転倒であり、全体の対象者のうち33.52%が6ヶ月の期間に最低一度転倒していたことになる。次には、褥瘡および誤嚥が6.59%と6.49%に比して、高い発生頻度である。このような高い率は、施設ケアにおいて転倒を避けるための推進活動と予防活動の推進が重要であることを改めて示している。もう一点の興味深い事実としては、転倒が他のアウトカム指標(脱水、褥瘡と誤嚥)と違って、介護度2と3の者で多く発生していることである。他のアウトカム指標(脱水、褥瘡と誤嚥)は高いニーズ(介護度4)を持つ入所者に起こった結果である。このような介護度による発生の違いを把握しておくことは重要であろう。

 また、この転倒者発生割合をアメリカでのナーシングホームと比較すると、本研究における6 か月間の65 歳以上のサンプルでの転倒発生率は33.52%、米国の転倒発生率は35.3%と近い値を示している (Jones AL, 2009) 。同様に褥瘡発生率を比較すれば、本研究では6.59%であるのに対し、アメリカでのナーシングホームに入所している65 歳以上の発生率は10.3%(Jones AL, 2009)である。しかし、この米国の結果は、断面調査の結果であり、6か月間の頻度ではない。比較には注意を要するが、我が国の老人保健施設における褥瘡発生は米国に比して少ない可能性がある。

 この分析で使用したアウトカム指標は、老人保健施設内のユーザレベルの評価指標として有用であると考えられた。しかし、施設利用者の特徴とアウトカムの関連を理解するためには、さらに多くの調査が必要とされる。アウトカムが施設間で異なる場合、それは施設のパフォーマンスを反映した可能性も高いが、同時に利用者の特性を常に考慮することが必要である(Case mix adjustment)。これらのデータはケアの質向上のために活用できる重要な情報を提供しうる。さらには、その結果を公表して利用者が選択の際に参考にできるシステムのある米国のように、入所者とその家族にも利用されるべきである。

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E.結論

 本研究は、施設ごとのアウトカム指標の発生割合を、全国からランダムに抽出した施設において示した我が国初めての研究である。今後、これらの結果を施設の属性データと連動させて詳細に分析・解釈し、全国老人保健施設協会と協力のもと、施設ケアの向上に資するような提言を検討していく予定である。

謝辞:貴重なデータ分析の機会をくださいました全国老人保健施設協会および「老健利用者の個別特性と時系列的状態像の指標(機能評価とコーディング)の検証に関する調査研究事業」研究班の皆様に深謝いたします。

引用・参考文献
  1. Houde SC, Gautam R, Kai I. Long-term care insurance in Japan: implications for U.S.long-term care policy. J Gerontol Nurs. 2007 Jan;33(1):7-13.
  2. Hawes C, Reliability estimates for the Minimum Data Set for nursing home resident assessment and care screening (MDS). Gerontologist. 1995 Apr;35(2):172-8.
  3. Morris J, Validation of long term and post acute care quality indicators CMS Contract No: 500-95-0062/T.O. Final Report, June, 2003
  4. Zimmerman D, Improving nursing home quality of care through outcomes data: the MDS quality indicators, Int J Geriatr Psychiatry 2003; 18: 250–257.
  5. Davies SM, Geppert J, McClellan M, et al. Refinement of the HCUP Quality Indicators. Technical Review Number 4 (Prepared by UCSF-Stanford Evidence-based Practice Center under Contract No. 290-97-0013). AHRQ Publication No. 01-0035. Rockville, MD: Agency for Healthcare Research and Quality. May 2001.
  6. Jones AL, The National Nursing Home Survey: 2004 overview. Vital Health Stat 13. 2009 Jun;(167):1-155.

F.研究発表

  1. 論文発表:なし
  2. 学会発表:なし(平成23 年度日本公衆衛生学会発表予定)

G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む。)

  1. 特許取得
  2. 実用新案登録
  3. その他

なし

表1 対象者の性別要介護度分布
男性要支援要介護合計
1 2 1 2 3 4 5
人数 2 19 49 89 99 70 37 365
0.19% 1.77% 4.58% 8.31% 9.24% 6.54% 3.45% 34.08%
女性要支援要介護合計
1 2 1 2 3 4 5
人数 16 38 87 197 179 120 69 706
1.49% 3.55% 8.12% 18.39% 16.71% 11.20% 6.44% 65.92%

要介護度不明= 17

表2 施設別の人数・平均要介護度とアウトカム発生者の割合(一部のみ抜粋)
対象者数転倒者率脱水者率褥創率誤嚥_発生率平均要介護度
20 60 5 0 15 5.3
20 55 0 10 5 4.4
20 53 5 0 0 5.1
20 50 20 20 20 4.9
20 50 5 5 0 41
20 50 15 0 5 4.1
20 50 0 0 10 4.8
20 50 10 20 0 5.4
20 50 0 5 0 4.5
20 50 0 15 25 5.1
20 45 25 5 5 5.2
20 45 5 5 5 4.2
20 45 0 15 5 4.8
表3 108 施設における各アウトカム発生頻度の基本統計
アウトカム施設数平均SD最少最大
転倒者率 108 32.7 12.8 5 65
脱水者率 108 5.7 7.5 0 35
褥創率 108 6.7 6.3 0 26
誤嚥_発生率 108 7 6.9 0 30
表4 個人単位でみたアウトカム発生人数
1)転倒
 要支援要介護合計
sex 1  2 1 2 3 4 5
Male  0 3 15 28 39 28 6 119
  0 0.85 4.26 7.95 11.08 7.95 1.7 33.81
Female  3 10 29 77 66 38 10 233
  0.85 2.84 8.24 21.88 18.75 10.8 2.84 66.19

Missing data = 7

2)脱水
  要支援 要介護    合計 
sex 1  2 1 2 3 4 5
Male  0 1 2 0 5 7 7 22
  0% 1.75% 3.51% 0% 8.77% 12.28% 12.28% 38.60%
Female  0 0 2 8 5 14 6 35
  0% 0% 3.51% 14.04% 8.77% 24.56% 10.53% 61.40%

Missing data = 1

3)褥瘡
  要支援 要介護    合計 
sex 1  2 1 2 3 4 5
Male  0 1 2 0 5 7 7 22
  0% 1.75% 3.51% 0% 8.77% 12.28% 12.28% 38.60%
Female  0 0 2 8 5 14 6 35
  0% 0% 3.51% 14.04% 8.77% 24.56% 10.53% 61.40%

Missing data = 1

4)誤嚥
 要支援 要介護    合計 
sex 1  2 1 2 3 4 5
男性  0 0 0 2 4 7 6 19
  0% 0% 0% 2.86% 5.71% 10% 8.57% 27.14%
女性 0 0 1 5 16 18 11 51
  0% 0% 1.43% 7.14% 22.86% 25.71% 15.71% 72.86%

Missing data = 1

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